入れ歯を科学する≪vol.3≫入れ歯で味がおかしくなる?入れ歯と味覚のお話

 

入れ歯を科学する≪vol.3≫入れ歯で味がおかしくなる?入れ歯と味覚のお話

 

入れ歯にしたら食事が美味しくなくなった、という話をよく耳にします。本来ないはずの入れ歯が口の中に入るわけですから、納得のいきそうな話です。でも本当に美味しくなくなるのでしょうか?今回は入れ歯と味覚について考えていきます。

そもそもどうやって味を感じているのでしょう。口の中には味覚を感じる働きをする味蕾(みらい)という味覚受容器があります。まず食べ物の味覚溶液が味蕾と反応します。すると味蕾の中の味細胞が、その味刺激を脳に伝えます。こうして味の感覚が成立しているのです。この味蕾は、喉の奥も含めて口の中全体にあります。ただし一番密度高くあるのは舌です。ですから味覚の感知には「舌」が最も重要な役割を担っています。

となると入れ歯は舌を覆っていません。ですから入れ歯で味が変わるということはないはずです、と歯医者なら言いたいところです。しかしこれは理屈の上での話であり、残念ながらやはり味覚は変化してしまいます。入れ歯で味蕾の働きがおかしくなるのではありません。舌はちゃんと味覚感知してくれています。ただ私たちが感じる「美味しい、美味しくない」というのは、味覚だけで感じているわけではないのです。味覚のみならず、美味しそうなにおい(嗅覚)、硬い柔らかいの噛み応え(触圧覚)、温かさや冷たさの温度(温度感覚)、時には見た感じ(視覚)や耳に入ってくる音(聴覚)も組み合わさった複合感覚として、私たちは食べ物を味わっているのです。それが風味です。例えば風邪で鼻がつまった時、食事が不味くなる経験をされたことはありませんか?これは嗅覚障害により風味が損なわれたからです。

入れ歯にしたら美味しくなくなるという不満の答えは、風味障害に起因するものだったのです。食べ物を口にした時、味覚と一緒に感じるはずのその他の感覚が入れ歯により大きく減少してしまうため、風味が損なわれてしまうのです。

私は入れ歯による風味障害は、ある程度仕方がないと考えています。ただ患者さんが少しでも美味しく食べていただけるような工夫をしています。例えば極力入れ歯を小さくしたり、咬みやすい人工歯を選択したりします。また舌を動かしやすいように薄い入れ歯にして、風味にマイナスの悪影響を及ぼしにくい入れ歯づくりに取り組んでいます。